『ナショナリズムの空間〜イスラエルにおける死者の記念と表象』著者 今野泰三さんインタビュー

イスラエルにおける死者の記念と表象

春風社 2021年



本書は、パレスチナに入植したシオニスト達が、どのように自らの歴史的正統性と政治的権利を主張する手段としてユダヤ人/教徒の死者とその死を利用し、パレスチナの景観の改変を行ってきたかを明らかにした研究書である。

特に、本書では、シオニスト入植者達がパレスチナ各地に建設した記念碑や記念空間に注目し、「ユダヤ民族」とその「祖国」というシオニズムのイデオロギーの創造と維持のための手段として死/死者が利用され、「新しいユダヤ人」の創造と祖国の回復というシオニズムのナラティブを正統化する役割が死/死者に与えられてきたことを明らかにしている。さらに本書からは、イスラエル建国以降、世俗的要素が強かった死者を記念するナラティブや儀式が次第に宗教的要素と融合され、民族と国家が神と結び付けられ、神聖化されていった過程をも知ることができる。

本書後半は、イスラエルが1967年戦争においてヨルダン川西岸地区等を占領し、入植地を建設していった過程とその政治的背景を考察する。さらに、シオニズム運動とユダヤ教を同一視する民族宗教派と呼ばれるユダヤ系イスラエル人達が、どのようにシオニズム運動内の独自組織として登場し、イスラエルのナショナリズムにおける世俗的性格と宗教的要素の融合状態を一層強めながら、ヨルダン川西岸地区等の占領地でのイスラエル人入植地建設の先頭に立ってきたかを明らかにする。そして、フィールドワークの成果に基づき、これら民族宗教派の入植者たちが、占領地で殺された仲間や親族とその死について、贖いのプロセスの前進を証明し、新たな生命と建設に繋がるものとして、さらに、生者に新たな力を与え、アラブ人の「残虐性」や「反ユダヤ主義」を証明するものとして語り、記念し、入植地建設を進めるための政治的手段として利用してきたと論じる。

イスラエル人入植者の殺害現場に作られた記念碑(2010年2月24日今野泰三さん撮影)
殺害されたイスラエル人入植者を記念して建設されたユダヤ教神学校(2010年2月24日今野泰三さん撮影)


【著者:今野泰三 プロフィール】

1980年、東京都生まれ。大阪市立大学大学院文学研究科博士課程修了、博士(文学)。日本国際ボランティアセンター(JVC)パレスチナ事業現地代表等を経て、現在、中京大学教養教育研究院准教授。専門は、中東地域研究、平和学、政治地理学。パレスチナ/イスラエルにおいて、植民地主義と宗教とナショナリズムがいかに相互作用しながら、民族意識や社会経済構造を作ってきたかということに関心がある。主な著作に、『ナショナリズムの空間――イスラエルにおける死者の記念と表象』(春風社、2021)、「宗教的シオニズムの構造的基盤に関する歴史的考察――ハ・ミズラヒとハ・ポエル・ハ・ミズラヒの多元的・状況対応的性格――」(『ユダヤ・イスラエル研究』第34号、2021年)がある。


【インタビュアー:松田ヒロ子 プロフィール】

神戸学院大学准教授。PhD(History, オーストラリア国立大学) 学歴・経歴の詳細→https://researchmap.jp/hirokomatsuda