第91回 増渕あさ子さんインタビュー『軍事化される福祉(ウェルフェア)〜米軍統治下沖縄をめぐる「救済」の系譜』

インパクト出版会 2025年



今回は2025年にインパクト出版会より出版された『軍事化される福祉(ウェルフェア)〜米軍統治下沖縄をめぐる「救済」の系譜』の著者である増渕あさ子さんにお話を伺いました。インタビュアーは松田ヒロ子さんです。

【著作概要】本書は、米軍統治下沖縄(1945-1972年)における住民の医療福祉や衛生に関わる制度や言説、人びとの実践を分析対象とし、生活・生命を守り、心身をケアする様々な「福祉(ウェルフェア)」実践が、沖縄を「反共の砦」として軍事要塞化しようとしていた米国の軍事拡張主義・冷戦政策と複雑かつ密接に結びついていた事態を、「軍事化される福祉(militarized welfare)」という言葉で理論化・問題化している。
沖縄戦開始と同時に米軍施政下に置かれた沖縄では、大規模なマラリア防遏を皮切りに、性病・結核・ハンセン病など主に感染症対策を中心とする公衆衛生政策が矢継ぎ早にとられていった。しかし、沖縄での医療衛生政策は、米軍人の健康維持を第一義としたものであり、住民福祉の復興は沖縄の医療者の手にゆだねられた。沖縄における社会政策の不整備は、それを補完する形で、沖縄内外を結ぶ官民による多様な援助活動・救済運動を引き起こす。海外沖縄移民やキリスト教団体、国際機関によるこうした活動は、しばしば米軍当局や日米政府の思惑に絡め取られながらも、統治側も予期しない、領土的境界をこえた人的・物的ネットワークも生み出していた。軍事の論理が優先されたことで沖縄の福祉の現場に生じた〈歪み〉を、様々な力学が輻輳する〈磁場〉として分析することで、沖縄米軍統治の歴史を生命・生活をめぐる政治という最も親密で身体的な次元から再検討することが、本書を貫く問題視座である。


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【ゲスト:増渕あさ子 プロフィール】

トロント大学東アジア研究学部博士課程修了(Ph.D.)。現在、立命館大学産業社会学部准教授。同志社大学〈奄美-沖縄-琉球〉研究センター研究員。専門は歴史社会学、戦後沖縄史、医療史、エスニシティ研究。 主な著作として、“Stamping Out the ‘Nation-Ruining Disease’: Anti-Tuberculosis Campaign in US-Occupied Okinawa”, Social History of Medicine 34 (4), 2021、「公衆衛生看護婦の経験から考える沖縄の戦争と占領」『社会事業史研究』(61号、2022年)、「医療衛生から再考する沖縄米軍占領」歴史学研究会編『日本復帰50年琉球沖縄史の現在地』(東京大学出版会、2024年)。


【インタビュアー:松田ヒロ子 プロフィール】

神戸学院大学専任教員、ブックラウンジアカデミア事務局 プロフィール詳細→https://researchmap.jp/hirokomatsuda