帝国日本における越境・断絶・残像

東京・風響社 2020年



[人の移動]
国境なき越境、その実像を「人」から探る。内地と外地を厳しく分けながらも一体化をはかる強大な国家権力。複雑な境界線が入り混じる中で、統治下の台湾・朝鮮そして満洲まで軽々と渡りゆく人々もいた。かつての大東亜「グローバリズム」の実態を、人の側面から克明にたどる。

[モノの移動]
国境なき越境、その実像をモノから探る。日式表札やモダン建築、石垣のパイナップルや職人の道具など、いまもなお痕跡を残す統治時代のモノたち。その素性をたどると、支配というタテ軸の奥にさまざまな利害関係や深い交流があった。モノから見えてくる文化の複雑な位相。


関連カテゴリ:

   


【ゲスト:上水流久彦 プロフィール】

広島大学大学院在籍中に博士論文の資料収集のため、台湾の中央研究院民族学研究所の訪問学人(客員研究員のようなもの)になり、2年弱の現地調査を行いました。フィールドは台北市、テーマは都市化のなかで伝統的な組織がいかに変容しているか、でした。都市化の中で地元の人が伝統的な組織を用いて、自分たちの世界を守っていく姿を見ることができました。 現在は、植民地主義と越境を研究しています。前者は、台湾で日本の植民地統治がどのようにとらえられ、現在に影響しているのかという観点から当時建てられた建築物の今を追いかけています。後者は、台湾東部と沖縄県八重山地方の植民地期から現在までのかかわり方を調べています。この二つの関心が交わるところに今回編集に関与した本が存在します。 博士号を得たあと、当時の県立広島女子大学に就職し、その大学が再編された県立広島大学に現在勤務しています。文化人類学などを教えています。


【インタビュアー:冨田哲 プロフィール】

広島大学教育学部で日本語教育を専攻し、卒業後、ニュージーランドの大学で日本語を教えました。首相在任中の出産やCOVID-19対策でよく話題になるニュージーランド首相(2020年現在)のジャシンダ・アーダーンは、私が教壇に立ったワイカト大学の卒業生ですが、残念ながら同時期にキャンパスにいたわけではありません。 その後、名古屋大学大学院国際開発研究科に進み、まず社会言語学、さらに日本統治期から今日にいたるまでの台湾のエスニシティや言語状況に関心を持ちました。博士論文では、日本統治初期の日本語教育(台湾人対象)と台湾の言語の教育(日本人対象)の研究にとりくみました。修了後、2000年から台湾北部の淡江大学日本語学科で教えています。 もっか日本統治期台湾の税関、在台湾の韓国華僑、1960-70年代の台湾映画などが研究テーマです。淡江大学では、学部で日本語や日本近現代史、修士課程で日本統治期や台日関係にかかわる科目を担当しています。